北のグルメハンター・本田大助が語る「北海道物産展」
転勤で北海道・札幌へやってくると、使い古された1台のセダンが用意されていた。その日から、本田大助はまだ見ぬ食材を求め、北の大地を走り続けている。「足で稼ぐ」という言葉があるが、本田の場合は「わだち」で稼ぐ。「函館から羅臼(らうす)へ、と口で言うとすぐみたいですが、実際には、東京から京都までの距離より遠いんですよ。北海道を商談で回るには、車がないとどうにもなりません」。ハンドルを握って、日々、地平線の向こう側へ・・・・・・。
新聞記者として数々の食の現場を取材してきたYOMIURI BRAND STUDIOのライターが聞いた。
食べるのが好き!
気づけば「札幌駐在第1号」
札幌駐在バイヤー・本田大助
北海道物産展は、大丸松坂屋百貨店が全国で開く人気の催しの一つ。定番のカニ、ウニ、イクラ、ホタテ、鮭など。それらを使った寿司や弁当。酪農王国のミルクで作るチーズやアイスクリーム、スムージー、プリン、ケーキ、クッキーなどのお菓子類。ジャガイモやカボチャの詰め放題。焼きたてのパン。鶏肉、牛肉、豚肉などの様々な料理。それらすべてを調達するのが、本田の仕事だ。今では「北のグルメハンター」と呼ばれている。
元々は、北海道の人間ではなく、出身は神戸市。子供のころから食べることが大好きで、大丸神戸店に入社してからも、ずっと食品畑だ。北海道への転勤を言い渡されたのは、15年前。「それまでは、物産展をやるときは、同じ大丸でも、京都、大阪、神戸など、それぞれバラバラに担当者が北海道へ行って、取引先と交渉していたんです。それでは非効率なので、一括して取引できるように、現地に駐在を置こうということになりました」。その第1号に選ばれた。
市場を巡って「ピン!」
海鮮のエースはブリ
松坂屋上野店250周年記念〈鮨 龍儀〉
年末豪華海鮮丼(みそ汁付き)は、本田が注目している“ブリ”が入っている。
広い道内を隅々まで回って、おいしいものを見つける。旬をとらえ、変わりゆく北海道のトレンドも追求する。「北海道というと、ホッケが有名ですが、だんだんとれなくなってきている。その代わり、ブリがとれ始めている。5年後、10年後を見据えて、今、何を紹介するか。いつも生鮮市場や漁協を回って情報を集めています。現場主義が大切です」
ときには、素材と商品を取り持つこともある。長芋の商談で、稚内(わっかない)に行ったときのことだ。お土産にカボチャをもらった。家へ持ち帰り、煮物にして食べてみると、ものすごく甘くて、おいしかったという。驚いて調べてみると、道北にある遠別町(えんべつちょう)のカボチャだった。「これなら、チーズケーキに使ってもおいしいかもしれない」。本田がカボチャを持っていった先は、チーズケーキが有名な小樽の洋菓子店、ルタオだ。3000個の契約を結んで作ってもらい、物産展に出すと大ヒット。遠別町と小樽。直線でも約200キロの点と点が結ばれ、一つの商品となる。「おいしいので、ただカボチャだけを売ってもいいんですが、それじゃつまらない。1足す1を2ではなく、3にしたいんです」。とうれしそうに話す。その面白さを知ったのは、札幌駐在となって2年目のことだ。
あの鹿肉のうまさを伝えたい…「そうだ、肉まんだ」
〈北のジビエ〉えぞ鹿まん
※12月22日(土)→30日(日)の出店
「今回の物産展では、えぞ鹿まんを出しています。醤油南蛮やカレー風味で北海道の鹿のおいしさを、知ってほしい」。鹿の肉には、思い出がある。駐在になってすぐ、妻と旅館に泊まりにいったときのこと。メーンディッシュは2種類の肉が用意されていた。牛肉のサーロインステーキと、鹿肉のサーロインステーキだ。「絶対、牛の方がおいしいと思って、選ぼうとしたら、妻が『私が牛にするから、あなたは鹿を食べてみたら』と言うんです。そう言われると、仕事柄、食べてみるかという気になって、食べたら鹿肉の方が断然、うまかった。肉のおいしさは赤身と脂のバランスだと思うんですが、そのとき食べた鹿肉は、うま味が十分にのっていて、やわらかくて、上品でした」
それ以来、何とかそのおいしさを広く伝えられないかと思っていたと話す。物産展で鹿肉は難しいといわれている。現に、鹿肉のステーキ弁当を出したこともあるが、あまり売れなかったという。一方で、北海道では野生の鹿が増えすぎて、鹿肉を食べることが奨励されている。「今回、初めて肉まんにして出すんですが、値頃感もあるし、いけると思うんです」
“北の大人気ラーメン”
連続して味わえます
札幌市で不動の人気を誇る〈麺屋 菜々兵衛〉
※12月22日(土)→30日(日)の出店
利尻らーめん味楽、麺屋菜々兵衛と、有名ドライビングガイドブックに選ばれたラーメン店が2軒、続けて出店するのも、今回の物産展の目玉の一つ。日ごろから食べ歩き、物産展に出す店を探し続けた成果だが、体重は北海道へ来てから20キロも増えてしまった。
縁もゆかりもない土地だったが、今は北海道の魅力にぞっこん。「北海道は、都市と田舎が共存しているところがいいですね。札幌では完全に都市の生活を楽しめますが、車で1時間も走ると、山があり、海があり、温泉がある。不自由を全く感じずに、大自然の中で暮らせます」
厚真町のおいしい農産物
ご賞味を!
〈レ・ディ・ローマ・プラス〉では、厚真町産かぼちゃ&フレッシュチーズのジェラートを販売。
そんな北海道のために、何かしたいという気持ちもある。今年の9月、最大震度7を観測した激しい揺れが襲った。「北海道胆振(いぶり)東部地震」である。「僕は現地にいる中で、いかに生産者と連携するかを考えています。例えば厚真町(あつまちょう)は今回の震災で、被災地として名前が上がっていますが、いい農産物があるんです。夏だったらハスカップ、秋、冬だったらジャガイモとカボチャ。今回は、ジャガイモやカボチャを使ったアイスクリームもあります。物産展で復興支援ができるわけではありませんが、被災地の商品を続けて扱っていくことで、被災地としてではなく、農産物で名前を知ってもらえるように、そのお手伝いが少しでもできれば」
他の百貨店では、異なる百貨店への出店を店に禁じるところもある。本田はそういった条件をつけない。「お店がいろんなところに出て、有名になるのはいいことじゃないでしょうか。それが地域のPRになるなら、僕もうれしいんです」と笑った。
(取材・撮影・監修 YOMIURI BRAND STUDIO)
※商品写真は提供