新町ビルエキシビション −多治見のいま 新たなローカル×カルチャ−

「生活と文化を結ぶ松坂屋」は2025年、本館がこの地に移転して100周年を迎えます。

この節目の年、古くから「やきもの」の街と知られる岐阜県多治見市で新たな「やきもの文化」を発信し、ユニークな活動を続ける『新町ビル』とともに館内を彩り、生活に欠かせないうつわから、アートとしてのやきものまで、多治見のいまをご紹介しています。

館内には東海地方出身やこの地で制作を続ける作家の作品が展示され、館内を彩っていますが、その作品の裏には、作家の活動支援や衰退していく街や産業を盛り上げるべく、ユニークな活動をしている仕掛け人が存在します。
その仕掛け人でもある、新町ビル「山の花」店主  花山さん、「地想」店主 水野さんを取材しました。

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ものづくりのまち・多治見から拓く 新たなローカル×カルチャー
多治見・新町ビル 花山和也・水野雅文 インタビュー


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やきものの産地・岐阜県多治見市。2019年に古ビルをリノベーションした複合施設「新町ビル」がオープンしました。運営するのは岐阜県東濃地方のやきものが並ぶ「山の花」オーナー・花山和也さんと生活を彩るものを扱う「地想」オーナー・水野雅文さん。お二人に新町ビルの役割やものづくりとの向き合い方、まちの未来について伺いました。


◇人とものづくりをつなぐ「新町ビル」の役割
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―新町ビルはどんな場所ですか? 

花山和也(以下、花山):新町ビルは2019年にオープンしました。僕は名古屋から多治見に移住して5年ぐらいで古い4階建てのビルに出会い、どう活用するかをプロジェクトとして立ち上げ、名古屋でお店を営む水野さんに相談して形になっていきました。

水野雅文(以下、水野):僕は岐阜県瑞浪市出身で、いずれは地元に戻ってお店をやりたい想いが漠然とありました。そんな中で花山くんと名古屋で地元のやきものを紹介するようになり、この建物が借りられるようになって、自分も店を出そうと決心しました。そもそも作っている人は近くにいるのに、その人の作品がまちで買えない状況を何とかしたかったんです。

花山:この地域は個人作家やメーカーや商社などの産業に従事する方もいて、さまざまな人が「やきもの」というキーワードでつながっています。けれど、交流する場所は少なかった。新町ビルは交流の地点。人・モノ・ことが交流する場所でもあります。
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―新町ビルのフロア構成を教えてください。

花山:1階と3階が展示スペースで、2階は僕が運営する「山の花」で、山の花は東濃エリアの作家を中心に扱うセレクトショップです。3市に限定しているわけではなく、隣接する愛知県瀬戸市や岐阜県内で活動している方で、基本的にやきもののみを取り扱っています。

水野:4階の店は僕が営む「地想(ちそう)」です。東濃を拠点に活動する作家をはじめ、他地域の方、やきもの以外の素材の作り手、生活を彩るものを全国から選んでいます。
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花山:この地域の作り手の幅の広さ、層の厚さ、クオリティの高さを見てもらえるようにセレクトしています。ものづくりに真摯で、やきものに魅了されている作り手の作品を扱っています。
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水野;僕が大事にしているのは、作為と無作為のあいだ。人の手が及ぶところ、または及ばないところの力があるからこそ生まれた魅力的なものを紹介しています。
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―新町ビルは、1階がイベントスペースになっているのも特徴的です。

花山:フロア構成の計画で水野さんが発案しました。1階には路面店がセオリーですが水野さんのアイデアが色濃く出ています。

水野:季節やイベントで変化するショーウィンドウにしようと考えました。1階を店舗にする良さもあるけれど、近所を散歩する人が「また変わった」「何かやっている」と感じられるような地域に開いた場所でありたい。何度も訪れている人も、変わるたびに楽しめる入口になれば。

花山:展示やイベントで久しぶりに会う作家同士、産業の方と作家さんが話す風景もよく見かけます。これも新町ビルの役割の一つになっていますね。

水野:場所のチカラですね。


◇作り手による人の営み、陰と陽を伝える展示に
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―松坂屋での展示テーマを教えてください。

花山:名古屋にも多治見にも文化がある。文化の面白さの根底にあるのは、作っている人たちが楽しんでいたり、苦しんでいたりする人の営みがあります。そこを展示で少しでも伝えられたら。そして、土自体の魅力も伝えたいです。

水野:陰と陽がテーマです。相反する要素だけど両者がないと成立しない世界観を見せたい。山の花にも通じますが、やはり作っている人たちはシンプルに大変なんです。例えば、陶芸だったら泥まみれになりながら朝から晩まで粘土と向き合って作り続ける。けれど、まちの華やかな場所で作品を飾らせていただく。これはどちらが欠けてもつくり出せない世界。我々を通じて両面を感じてもらえるよう臨みます。
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―松坂屋での展示を、どう楽しんでもらいたいですか?

花山:名古屋から30分で行ける地域で作られているもの。ものづくりの面白さやまちの空気感を一端でも伝えて、ものづくりに興味を持つきっかけになってほしいです。

水野:僕が地元のやきものに興味を持ったきっかけはファッション雑誌なんです。雑誌に載っていた、地元で作られたやきものに感銘を受けて興味を持ちました。そういった感動を与えるきっかけになれたらと強く思っています。松坂屋を訪れる人たちが意識せずとも、ふと目に入った作品に呼び覚まされ、感銘を受けてもらえたらと思っています。
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水野:岐阜から名古屋への買い物は、まちに出るワクワクがあり、ある種のハレの舞台。地元のやきものに関わる人たちが、松坂屋の素敵なフロアで地域の作品を含む展示を見て誇りに思ってほしい。新春のハレの時期に、僕らが選んだ作品がどう映るのか楽しみにしています。


◇新町ビルの5年を経て、まちに向けてできること
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―今後、地域で叶えたいことはありますか?

花山:新町ビルのすぐ近くのぎんざ商店街はシャッター街になりつつある状況です。そこで空き物件を借りて陶芸作家が使う工房とシェアハウスを2軒作りました。今後は3軒、4軒と増やしていきたい。ものを作ることへの協力や関わりを持っていきたいですね。
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水野:新町ビルは、ものづくりに関わる人や地域をつなぐハブになりました。さらに作品を紹介する場を広げるべく、セラミックバレークラフトキャンプ(通称CCC)というクラフトフェアを立ち上げました。若手からキャリアのある方たちが一堂にテントを並べ、イベントで物を販売する機会を創出し、新しいマーケットのあり方も生み出しています。
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水野:そして今年「土から生える」というアートプロジェクトを16年ぶりに復活させました。アートの力で地域の魅力を伝えていく。今後もいままでになかった方法、自分たちが興味のある手法を生かして地域や作り手の魅力を伝えて広げていきたいです。これが地域や社会に貢献する僕らなりの方法論なのかなと。

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―新町ビルがオープンしてから5年。まちは変わりましたか?
 
水野:この5年で、店や歩く人たちがシンプルに増えました。こんなにいろんな人が来てくれるんだ、という驚きがあります。

花山:新町ビルをきっかけに周辺を歩く人もいるし、まちの中でご紹介いただいて新町ビルに来てくれる人もいる。そんなつながりが5年間続いていますね。

水野:このまちで10年、20年と続けている方もいるからこそ新町ビルを始めた側面もある。ポジティブな連鎖が5年で加速しました。いいまちですよね。

花山:いいまちです。

―松坂屋での展示をきっかけに多治見を訪れる人もいるかと思います。 

花山:やきものがあり、買い物できる店がある。美術館もあるし、ご飯もおいしい。衣食住の全てが面白い地域です。思うがまま楽しんでほしいです。

水野:とにかく何でも紹介するので、まずは新町ビルに来てください!






Text:笹田 理恵(dig)
Photo:青木 兼治・Kana Kurata

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