ジョージ ジェンセンの名品、
ブロッサム ティーポット2D
- 文/天野志穂
- 2021/10/29
Georg Jensen
ブロッサム ティーポット2D
北欧王室にも愛される
デンマークの老舗ブランド
1904年にデンマークで誕生した、北欧デザインを牽引するブランド「ジョージ ジェンセン」。ホーム&ダイニング製品だけではなく、ジュエリーや時計のブランドとしてご存知の方も多いのではないでしょうか。創業者は、ブランド名にもなっているジョージ ジェンセンで、シルバー特有の素材の美しさと彫刻的なアプローチが生み出す独創的なデザインで脚光を集め、伝説の銀細工師と呼ばれたそうです。その礎となっているのが、彼が育った環境にあるとか。コペンハーゲンの北に位置する森や湖に囲まれた自然豊かな町で、多感な時期に体験した動植物との触れ合いが彼の作品のインスピレーション源に。果実や花、動物などのモチーフを取り入れたデザインが多く見られることからも、幼少期から色褪せることのないジェンセン氏の自然の恵みへのオマージュを感じずにはいられません。また、アートの域へと昇華させるほどの卓越した技術を併せ持っていたことも、ブランドを語るうえで特筆すべき点でしょう。彼は装飾過多な一過性の流行を嫌い、創意的なアール・ヌーヴォースタイルに代表されるシンプルで有機的かつ実用性に富んだスタイルを好んだそうです。
優美なデザインが目を引く
「ブロッサム」コレクション
ジェンセン氏が最初にデザインしたなかでも、もっとも典型的なアール・ヌーヴォー作品のひとつが、「ブロッサム ティーポット 2D」。春の季節を連想させる「ブロッサム」コレクションは、動植物の美しさや魅力、特徴を体系的に捉え、フォルム全体に表現しているのが特徴です。アール・ヌーヴォー時代のヨーロッパはジャポニズムが流行したこともあり、デザインに用いられているマグノリアのモチーフは、5月の象徴として用いる日本美術から影響を受けているのだとか。ティーポットのデザインをよく見ると、カエルの脚に、ふたの上にはマグノリアのつぼみが。低く安定感のあるフォルムもどこか愛らしく、それでいてエレガント。約115年以上も前のデザインながら今もなおタイムレスな魅力を放つ、まさに「ジョージ ジェンセン」の代表作です。
受け継がれる世界最高峰の
クラフツマンシップ
機能美と芸術的美しさの融合を叶えているのが、銀細工師たちの熟練の技といえるでしょう。ティーポットの表面には、ブランドの特徴的なスタイルである緻密な鎚目が職人の手によって丁寧に施されています。光の反射を和らげることで、ジェンセン氏が月明かりをイメージしたグレーがかった輝きを演出するためだとか。それぞれ手作業で成形された脚やハンドルを支えるソケット、注ぎ口を本体につぎ合わせる際も、職人は微妙なズレも見逃さないよう細心の注意を払いながら仕上げていきます。ハンドルは、当初象牙から作られていましたが、象牙取引禁止以降、現在はとても硬質な木材のエボニー(黒檀)のみを使用。ハンドルを取り付ける小さなソケット部はハンドメイドのため少しずつ形が異なるので、木彫師がそれぞれのティーポットに合わせて微調整しながら木材を削り、ハンドルを作っていくそうです。一点一点、職人の手により作られた表情豊かなティーポットは、もはやアートピース。そんなクラフツマンシップに裏打ちされたプレシャスな逸品は、自然へのオマージュという普遍的なコンセプトとともに、この先もずっと愛され続けることでしょう。
〈ジョージ ジェンセン〉
ティーポット2D
税込2,035,000円
/本館2階
※数に限りがございますので、品切れの際はご了承ください。
ファッションエディター
天野 志穂
Shiho Amano
1973年神奈川県生まれ。上智大学卒業後、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。雑誌『Vingtaine』、『ELLE Japon』のファッション担当を経て、2013年渡英。2018年に帰国した後、フリーランスとして活動。雑誌やWEB、広告などでディレクション、編集、執筆を行う。