ウォッチ vol.1
永遠のMy定番を手に入れる
荻山 尚|編集者・著者
今回のNAVIGATOR
荻山 尚|
|編集者・著者
『レオン(LEON)』副編集長『センス(SENSE)』編集長をはじめ、数々の男性ファッション誌のエディターを歴任。クルマ、ファッション、時計などに造詣が深い。
編集者・著者
人生をともに過ごす相棒を選ぶ楽しみ
スマートフォンやスマートウォッチが普及し、時間を確認するだけならば時計にこだわる必要のない時代。にもかかわらず、高級腕時計の人気はますます高まっています。人々はなぜそれを欲するのでしょう。この問いを解き明かしながらの連載第1回目。2022年7月にグランドオープンした松坂屋名古屋店 北館5階『GENTA the Watch(ジェンタ ザ ウォッチ)』から、人生の相棒となる、自分だけの定番を探す楽しみをお届けします。
松坂屋名古屋店 北館5階
『GENTA the Watch(ジェンタ ザ ウォッチ)』
売り場面積約1200㎡。ラグジュアリーでありながらも開放的な雰囲気のなか、高級時計をじっくりと堪能できる空間に進化した『GENTA the Watch(ジェンタ ザ ウォッチ)』。国内外80を超えるブランドを展開し、フロア中心部に設けられた時計修理工房「ライブリペアゾーン」では、常駐する時計技師の作業風景を眺めることができます。
初めて手に入れた喜びを今も
17歳のときに買った〈タグ・ホイヤー〉のダイバーズが、僕が初めて手に入れたブランドの腕時計でした。その頃、流行っていたんです。憧れてアルバイトして買った思い出の一本で、今でも持っています。時計をすることで大人になった気分になれたし、時間を守ることができる男というのを表現できるように思っていたのでしょう。アクセリー感覚もあって、お洒落になったようでうれしかったです。
本格的な機械式で、今でも使っている時計は、20歳の記念に購入した誕生年と同じ1972年製の〈ロレックス〉です。モデルはオイスター。これは三針のみのシンプルなデザインだからこそ、長く愛用できるのだと思います。30代は、〈フランク・ミュラー〉〈ベル&ロス〉〈カルティエ〉などさまざまな機械式腕時計を購入しました。『LEON』など雑誌の編集に携わり、洋服のことばかり考えていた頃で、これらはどちらかというとファッション気分で楽しんでいたように思います。
年を重ねたからこその記念の一本
40歳の記念にと購入したのが、ずっと欲しいと思っていた〈パテック フィリップ〉のカラトラバです。これは、レファレンスナンバー96で、初代モデル。こちらもシンプルな三針で、今の目で見ると小ぶりなケースサイズですが、バウハウスの芸術運動から影響を受けたミニマリズムが息づくエッジの効いたデザインで、見ているだけで気分が上がります。ちょうど今、オーバーホールに出していて写真に撮ってもらえなくて残念です。でも、大切すぎてなかなかデイリーには使えないんですよ。「ここぞ!」というドレスアップしたときにつけています。
50歳の記念には、ケータハムというイギリスの車を買ったんです。1950年代に誕生した車ですが、今でもつくられていて、クラシカルな見た目も運転もとても楽しいです。60歳には……まだ想像もつかないですが、何にするんでしょうね。〈グランドセイコー〉もいいなと思います。時計ってやっぱり車と似たようなところがあって、歳をとってくると、機械ものがどんどん好きになっていく感じはありますね。
自分の定番となる時計を見つけよう
高価な時計を手に入れるのなら、人生に寄り添ってくれる、セルフヴィンテージになるような時計と出会いたいもの。そんな「運命の一本」の見つけ方をご紹介します。
名門の歴史、哲学を紐解く
自分にしっくりくる定番を見つけるには、欲しいと思ったものに対して、多少調べて勉強していくのもひとつの方法ですね。僕はそういうタイプです。40歳にはカラトラバ、と決めたのは〈ロレックス〉は持っていたし、ドレスウォッチが欲しかったから。そして、やっぱり時計専業メーカーがいいな、できれば自社でムーブメントを作るマニュファクチュールが好きだなと考えながら、歴史やエピソードから調べるうち、今の自分にとっての最高峰はこれだと思ったんです。歴史あるブランドの三針時計は、シンプルだからこそ精巧さや美意識が伝わりやすく、とても美しいですからね。
それから、調べていくと楽しいのが、ミリタリースペック。軍用に時計を卸している〈ハミルトン〉や〈IWC〉とか、ああいう世界感も魅力的ですよね。例えば防水300mといっても、ほとんどの人が300m潜ることなんて一生ないと思うので、オーバークオリティは必要ないけれど、あるとうれしい!スペックやそれが完成した背景を調べるほどにハマる方も多いんじゃないでしょうか。
まずは長く愛される定番モデルをチェック
まだ自分が欲しいイメージがかたまっていない方は、インスピレーションを大事にしてみるのがいいですね。まずはお店に行ってショーケースを眺めながら、気になったものについて質問してみましょう。各ブランドの方が丁寧に教えてくれますよ。ショップでお話を聞くことでブランドの雰囲気や哲学もわかります。大いに迷うかもしれませんが、『GENTA the
Watch』にあるブランドは名門ばかり。間違いはないし、それぞれのブランドに定番モデルがあるので、そこに注目すると外すことはないと思います。長く作られているものは、長く愛されているということですからね。
長い目で見るなら機械式時計はおすすめです。メンテナンス次第でずっと、それこそ世代を超えて一生使えるんですから。一方、クオーツは時間に正確。小さく薄くできるので、ファッション性が高いものが多いのが魅力です。
手元から与えたい印象を表現
「時計は名刺代わり」とも言われますから、ファッションの観点から、自分がどう見られたいかで入るのも手ですね。品良く見せたいなら〈グランドセイコー〉、スポーティーだけれど誠実さがあるタイプならば〈チューダー〉や〈オメガ〉のダイバーズ系、遊びなれているリッチさを醸し出すなら複雑機構を備えた最先端の一本などなど、手元からイメージを伝えられると思います。そこに「自分にとってなぜいいのか」という理由をプラスすれば、いい名刺代わりに!
時計は、たとえ人とかぶったとしても「よくわかってるな」という雰囲気になるので、かえって話が弾むくらいです。それでもあえて他の人と違うものを、というときにはリリースされたばかりの新作や限定モデルはいかがでしょう。結婚やお子さんが生まれた記念、新たに事業を始めた年など、人生の節目に発表されたものを選べば、これから一緒に時を刻んでいくんだという気持ちに。きっととても思い入れのある一本になりますよ。
技術の粋、ロマンが詰まった時計を定番に
複雑機構や、オーバースペックなど、職人の技術やロマンの詰まった時計には特にグッとくるもの。定番にしたい、とっておきのモデルをご紹介します。
複雑機構の魅惑のタイムピース
時計好きならば、複雑機構に魅了される方も多いはず。小さな腕時計にパーペチュアルカレンダーなどが組み込まれた時計は、技術の粋を集めた憧れの存在です。その最高峰のひとつが〈ヴァシュロン・コンスタンタン〉。1755年創業、世界最古の時計製造マニファクチュールで、歴史に培われた技術、手作業による仕上げが本当に素晴らしいです。こちらは、パーペチュアルカレンダーをエレガントに解釈したもので、18Kピンクゴールド製の洗練されたデザインのなかに、厚さわずか4.05mmの超薄型の自動巻きムーブメントが搭載されています。とてもエレガントですが、背面はシースルー! 自動巻き機械式ムーブメントが動く様を眺めているだけで、時を忘れそうです。複雑機構は高価になりますが、これを定番にできたなら、毎日心躍るでしょうね。
オーバースペックは男のロマン!
ハイクオリティなダイバーズウォッチは、堅牢でスポーティ。爽やかな雰囲気で定番としてずっと人気が高いですね。僕も若い頃に憧れて手に入れましたが、年齢を問わず長く愛用しやすいと思います。ダイバーズウォッチで高い人気を誇るのが〈オメガ〉。マスターピースがたくさんあるブランドで、リミテッドモデルもよくつくられています。007エディションもかっこいいんですよね。1993年に発表された「シーマスター ダイバー300M」は、その名の通り、防水300m! オーバースペックが冒険心を誘います。この42mmのステンレススティール製モデルは、波模様と6時位置の日付表示が特徴。ホワイトのスーパールミノヴァが塗布された立体的なインデックスが爽やかです。こちらもケースバックはスケルトン。動いている様子をサファイアクリスタルガラス越しに眺めることができます。
レディスは華やかさと精巧さを併せ持つ名品を
さまざまなデザインが展開されているレディスウォッチを選ぶときに迷ったら、ジュエリーのように着けられる華やかなものを。精巧さを併せ持つ一品を選ぶと、特別なMy定番になるはずです。
マニュファクチュールに優美な宝飾性をプラス
レディスウォッチは、男の人と少しアプローチが違うのかな、とも思います。メンズ同様、専業メーカーの洗練されたシンプルなタイプももちろん素敵ですが、デザインにバリエーションがある分、女性用ならではの華やかさのある一本を定番にされるのも魅力的ではないでしょうか。長い歴史を誇る〈ジャガー・ルクルト〉は、開発、製造、組み立てはすべて工房の一つ屋根の下、手作業で行われている、信頼のマニュファクチュールです。こちらのランデヴー・クラシックは、エレガントなシルエットと複雑機構を眺めることができるサファイアケースバックを備え、あらゆる角度から楽しむことができる優美なコレクション。精密なギョーシェ仕上げやマザー・オブ・パールを施した表面と、ぐるりと囲むダイヤモンドの輝きが優美に調和しています。気品あるブルーの針も印象的ですね。
輝きに満ちた時を刻む流麗なウォッチ
僕の印象だと、時計を選ぶとき、女性はファッションブランドから探す方も多いのでは。デザインが魅力的なものが多いのは確かですが、今回のようなMy定番を、というときはムーブメントにも着目するのをおすすめしたいです。〈ハリー・ウィンストン〉は、華やかなジュエラーとして名高いブランドですが、名だたる時計メーカーと同グループ。ジェムセッティングの専門知識と高級時計製造の技術を融合させた卓越した時計にも定評があり、独創性あふれるタイムピースを生み出しています。このHW アヴェニュー・コレクションは、ニューヨークの5番街(フィフス・アヴェニュー)にちなんで名づけられたもの。アールデコを思わせる流麗なデザインにラウンド・ブリリアントカット・ダイヤモンドを配し、ムーンフェイズ機構が収められています。輝きに満ちた時を刻んでくれそうですよね。こういったきらびやかなデザインは、アクセサリーなしでカジュアルなスタイルにつけても洗練されたムードで素敵だと思います。
今回は、My定番ウォッチとの出会い方をご紹介しました。時計はさまざまな角度から選ぶポイントがありますし、各ブランド魅力的な名品揃いなので悩ましいとは思いますが、実は、決めるまでがいちばん楽しいと思うんです! 車と違っていくつも持てますから、まずは自分の定番と思えるものをじっくり見極めてみましょう。どうぞ、とことん迷う喜びを味わってください。
次回は、ビジネスシーンに、デートにと、シチュエーション別にふさわしい時計選びをお届けします。お楽しみに。
次回は6月下旬の更新を予定しています。
荻山 尚 TAKASHI OGIYAMA
東京都出身。青山学院大学を卒業後、商社勤務を経て雑誌編集者の道へ。20代は『Car Ex』『カーマガジン』など自動車雑誌に在籍。30代で『レオン(LEON)』副編集長『センス(SENSE)』編集長をはじめ、数々の男性ファッション誌のエディターを歴任した。ピッティ・ウォモやミラノのコレクション、国際試乗会などイタリア取材の経験も豊富。現在はフリーランスの編集者、著者として活躍中。プライベートでもファッション、クルマ、時計、食、旅を愛し、なにより家族を愛する1972年生まれ。
※掲載品は2023年6月1日時点の取り扱い商品・価格です。商品の内容や価格は変更になる場合がございます。
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