ラグジュアリー vol.2
クラシカルでフレンドリーな唯一感。
フレンチメゾン〈パトゥ〉

宮田 理江|ファッションジャーナリスト

今回のNAVIGATOR

宮田 理江
ファッションジャーナリスト

ファッション関連企業へのアドバイスや、企業・商品ブランディングの協力などの仕事を手がけるファッションジャーナリスト。さまざまなメディアにて連載を受け持っている。

宮田 理江

ファッションジャーナリスト

ファッション業界での豊富な経験を活かしてファッションジャーナリストになり、テレビ、ラジオ出演をはじめ、メディアでの連載、本の執筆などで活躍されている宮田理江さん。海外・国内コレクションのリポートや最新トレンドの紹介など、最新のファッションについて発信されています。全3回の連載を通して、ラグジュアリーブランドの魅力を解説していただきます。

100年超の歴史をもつ〈パトゥ〉クチュリエの系譜

おしゃれのペースが以前よりもゆったりしてきたことにお気づきでしょうか。数年前までは目先の細かい「トレンド」が次々と打ち出され、シーズンごとに風向きが変わるような目まぐるしさがありました。でも、近ごろは本当に気に入った「愛着アイテム」を長く上手に着る人が増えています。SDGsの流れもあって、本物・上質志向が一段と強まってきているようですね。クラシックさや正統派感が支持されるようになったのも、今の傾向。長い歴史を持つ老舗ブランドはこのようなおしゃれマインドの成熟を追い風に、一段とファンを増やしています。今から100年以上も前にパリで創業したファッションブランド〈PATOU(パトゥ)〉はフランスのエレガンスを象徴する、代表的なブランドと言えるでしょう。

創業者のジャン・パトゥはパリで1914年に自らの名前を冠したメゾンを創設しました。来年には110周年の節目を迎えます。ウエストを締め付けるコルセットをはじめ、当時の女性用衣服は窮屈なものでしたが、しなやかで上品なシルエットを描く〈パトゥ〉のドレスは制約や苦痛から女性を解放しました。スポーティーな装いを用意したのも、彼の功績です。テニスチャンピオンのスザンヌ・ランランをミューズに迎えて、背面のネックラインが低めのロングドレスを提案。エレガントで着やすいデザインが支持されて、多くのセレブリティたちが顧客リストに名を連ねるようになっていきました。数あるメゾンの中でも〈パトゥ〉が別格なのは、オートクチュールの歴史を受け継いでいるから。ファッションの世界で「モードの最高峰」と呼ばれるのが高級注文服のオートクチュール。映画祭やアワードのレッドカーペットでおなじみの、特別な装いです。繊細な職人技が求められるので、世界トップレベルのファッションブランドしか手がけておらず、クチュールメゾンは別格の地位を認められています。〈パトゥ〉は最も早い時期の老舗クチュリエです。

ジャン・パトゥからギョーム・アンリまで紡いできたブランド哲学

メゾンの名声はファッションにとどまりません。たとえば、ジャン・パトゥが発表したフレグランス「Joy(ジョイ)」は香水の歴史に残る傑作。「Joy」は今なおフレグランス業界で指折りの人気を誇っています。アクセサリーを生み出したのもジャンの功績。単に着飾るのではなく、おしゃれを通して、人生を楽しむことを促すジャンの思想が「楽しみ」という意味の名前からもうかがえます。ファッションを主体的に選び取る女性に寄り添うブランド哲学は後継者たちにも受け継がれました。有名なデザイナーたちがメゾンの美学を支えてきたのもすごいところです。ジャンの没後、マルク・ボアンが1954年にアーティスティック・ディレクションを任され、その後もカール・ラガーフェルド、ミシェル・ゴマが続きます。そして、ジャン=ポール・ゴルチエ、アンジェロ・タルラッチ、クリスチャン・ラクロワもメゾンの歴史にそれぞれのページを書き加えました。偉大な名前のリストに、あらためてこのメゾンの偉大さを感じることができるでしょう。

アーティスティック・ディレクターのギョーム・アンリ

現在のギョーム・アンリがアーティスティック・ディレクターに就いたのは、2020年春夏シーズンからのこと。ウィメンズ・プレタポルテラインの再ローンチが彼の手腕に託されました。私はギョームが来日したときに2回お会いし、記念写真を撮ってもらいました。優しくてハンサム、そしてフレンドリー。一言で言えば、「チャーミングなキャラクター」が印象に残っています。ブランド名を〈パトゥ〉に変え、ロゴデザインも改めたメゾンに迎えられたギョームは、それまでにも〈NINA RICCI(ニナ リッチ)〉や〈CARVEN(カルヴェン)〉で手腕を発揮。〈パトゥ〉では新コンセプトをもたらしたのに加え、クチュールメゾンならではの品格や職人技をプレタポルテに注ぎ込んで、新時代の「パトゥ・レディー」のイメージを呼び込みました。エレガンス、繊細さ、スポーティー、ほんのりガーリー感などを兼ね備えながら、自在にまといやすいウィメンズプレタポルテは、ありそうでなかった装いです。現代のリアルな女性が望む、着こなしやすい装いを得意とするのも彼の持ち味。クチュールにインスピレーションを得た、洗練や格上ムードを帯びたコレクションはたちまち支持を広げて、今に至ります。彼が手がけてまだ3年足らずなのに、すごいことですよね。

メゾンの奥深さを存分に味わえる〈パトゥ〉の店舗

気負わないムードを宿しつつ、ありきたりに見えないのが「ギョーム・マジック」の魅力。創業者と同じく、ファッションを総合的な生活様式ととらえ、おしゃれの楽しさを多面的に語りかけるかのよう。彼が好む「フレンドリー」という言葉が示す通り、親しみやすい雰囲気と、フレッシュなたたずまい、長く着続けたくなるタイムレス感は、ぜひ実際にショップで感じてほしいと思います。ほかの品物と違って、ファッションアイテムのショッピングは、購入する「物」だけが目的ではありません。実際にアイテムに触れて、選び、試すというお買い物のプロセスそのものが記憶に残る体験であり、プライベートなよろこび。だから、どこでショッピングのひとときを過ごすかが大事になってきます。私が優先するのは、ブランドの世界観を全身で感じ取れるかどうか。それから、フルラインアップの品ぞろえがあるか、ゆったりした気持ちで過ごせるスペースかどうかなども、お買い物の満足度を左右します。そういったいろいろな条件をすべて満たしてくれる「パトゥ松坂屋名古屋店」は、メゾンの奥深さを存分に味わえる場所だと感じました。

大人チャーミングな世界に魅了される、環境にもフレンドリーな空間

ギョームの着想を注ぎ込んだ〈パトゥ〉のショップがあるのは、松坂屋名古屋店の南館1階。キーカラーのピンクで彩られた、チャーミングでフレンドリーな空間は、足を踏み入れる瞬間から、気持ちがパッと華やぎました。それはたとえば、メイクの際にお気に入りのチークをつけたときの気分に似ているかもしれません。店内には若々しさや愛らしさなどのフレッシュなムードも漂い、自然とおしゃれ心が沸き立つのを感じます。大人かわいいイメージのピンクが、やさしく店内に招いてくれるよう。オープンしたのは2023年3月。メゾン初の旗艦店「Patou Omotesando(パトゥ 表参道)」の設計を手掛けた建築家、小野寺匠吾氏との協業でデザインされました。

実は、サステナビリティへの取り組みが進んでいるのも、この店舗の魅力。環境にやさしいマテリアルを積極的に採用し、木材繊維やリサイクルファブリックを活用しています。工事から出る廃材のリサイクル率も高く保たれました。パリの内装と同じく、木や紙などの素材を用いているのは環境への配慮です。何重ものサステナビリティへの配慮を盛り込みながらも、ことさらに主張しているように見えないのも素敵なところ。幾何学的な形のテーブルや、四角いチェア、半円形のラックなど、印象的な家具や什器はオリジナルで制作されているのだそう。シンプルなシルエットを取り入れつつ、細部にデザイン性の高さが感じられ、店舗の空間に調和を生み出しています。

半円形シルエットのアイコンバッグ「Le Patou」が壁にたくさん並んでいて、まるで美術館のよう。こちらはメゾン初のレザーハンドバッグ。「笑顔」をデザインしたバッグは装いの朗らかなアクセントになってくれます。斜め掛けや肩掛けもしやすいバランス感がスマートで、携えるだけできれい見えしますよ。カラーバリエーションが豊富なので、選ぶのが楽しくなりそう。自分のバッグコレクションにないこのオレンジを迎え入れたくなりました。グリーンコーデにいい感じのアクセントになっていると思いませんか。アップサイクル、デッドストックのレザーだけを使っているので、サステナブルなところも、エコな気持ちになじむ理由です。

「パトゥ松坂屋名古屋店」ではTシャツやニットなどのロゴ入りアイテムが人気ですが、〈パトゥ〉らしいフェミニンなデザインを好むお客様も多いそう。たとえば、パフスリーブのブラウス。小物類ではトートバッグや帽子が好評で、トレンドのバケットハットをお買い求めのお客様が目立つといいます。メゾンの世界観を詰め込んだ、開放的な空間でのお買い物が楽しめるのは、こちらならではの体験でしょう。ショップスタッフさんによると、全身コーディネートを提案しているとのこと。これはうれしいですね。ショップスタッフさんからうかがったお話からもメゾンへの思い入れやリスペクトが伝わってきました。レディ・トゥ・ウエアやアクセサリーがフルラインアップでそろっている中で、メゾンの世界観に浸りながら、アイテム選びやフィッティングの際にスタッフさんからアドバイスしてもらえるのもほかでは味わえない体験ですね。品ぞろえの魅力は、ロマンティックなアイテム、カジュアルなアイテム、シンプルなアイテムのバランスが絶妙なところ。手持ちの自分の服にも合わせやすく、しかも1点投入でメゾンのムードをまとえるわけです。ギョームがつくり上げる、モダンでフェミニンなアイテムとマッチする空間で、自然とメゾンの雰囲気に包まれるひとときはおしゃれ心を盛り上げてくれますよ。

絶妙ミックスコーデに導く名品とロゴアイテムたち

〈パトゥ〉の名品ブラウスとして知られているのが「オーガニックコットン ドローストリングパフスリーブ トップ」です。優美に波を打つ襟周りの景色があでやかで、たっぷりのボリューム感がレディーライクなたたずまい。首のドローストリングがドラマティックな動きを印象付けています。スタイリングの際は、エレガントな表情を生かして、あえてジーンズやタイトスカートなど、カジュアルやシンプルなボトムスで合わせると、こなれ感が出ますよ。ゴージャスな襟とボリューミーな袖のおかげで、華奢感を引き出せるのも、このブラウスのいいところ。ドローストリングスのゆるめ加減でハイネックにもオフショルダーにも着こなせる重宝シルエットです。

〈パトゥ〉オーガニックコットン ドローストリングパフスリーブ トップ 税込79,200円[松坂屋名古屋店 南館1階]

〈パトゥ〉オーガニックコットン ドローストリングパフスリーブ トップ 税込79,200円[松坂屋名古屋店 南館1階]

〈パトゥ〉のロゴ入り「バケットハット」は人気の高いアイテム。大きなロゴがアートライクな印象を顔周りに添えてくれます。バケットハットのトレンドが続いているのは、どこかレトロな雰囲気があるのに加え、自分好みの着こなしに融け込ませやすいから。フレンチシックなムードもまとえます。こちらはクラウンが深めなので、顔が小さく映る効果も期待できそう。シグネチャーのロデオブルーコットンを使用して、軽快な表情を帯びさせました。どんなスタイルにもマッチして、〈パトゥ〉らしさを醸し出してくれるエッセンシャルアイテム。帽子でありながら、ヘッドアクセサリーのようにも楽しみたい、そんな重宝ツールです。フロントにあしらった、ゴールドのロゴ刺繍がクラス感を際立たせてくれるから、カジュアルな装いも格上げしてもらえます。

〈パトゥ〉オーガニックコットンデニム製 パトゥ バケットハット 税込48,400円[松坂屋名古屋店 南館1階]

〈パトゥ〉オーガニックコットンデニム製 パトゥ バケットハット 税込48,400円[松坂屋名古屋店 南館1階]

2023-24年秋冬コレクションが老舗百貨店でのショッピング気分を演出

ギョームが迎えられてからの〈パトゥ〉はどのシーズンも注目の的です。2023-24年秋冬コレクションはパリの老舗百貨店「サマリテーヌ」で発表しました。モデルたちは買い物客に扮して登場。鮮やかなレッドに身を包んだルックは、パワーやぬくもり、フェミニンさなどを感じさせます。オートクチュールの時期に百貨店で発表するのは、何とも心憎い演出。ポジティブなお買い物気分に誘うかのようです。1904年に創業した、伝説的なパリのシューズブランド〈メゾン エルネスト(Maison Ernest)〉とコラボレートしたルックも披露。レースアップのサイハイブーツがレッグラインをしなやかに描き出しました。ロングコートとマイクロミニスカートを組み合わせて、長短レイヤードにすることで、ミニをシックにまとう提案です。ロゴ入りキャップをかぶって、クラシカルと若々しさをクロスオーバー。今の〈パトゥ〉らしい大人チャーミングな装いにまとめ上げています。

「ファッションのアカデミー賞」とも呼ばれ、世界のファッションアイコンがニューヨークに集まる、年に一度の祭典「メット・ガラ」。開催の主な目的は、メトロポリタン美術館(メット)のファッション部門へのチャリティーです。ガラは大がかりなイベントを指します。有名な俳優や歌手が来場することで知られていますが、実はファッションデザイナーが女優や歌手をエスコートする形で一緒に参加しているのです。メットで開催されるファッション展覧会に合わせて、毎回ドレスコードが選ばれていて、2023年は偉大なファッションデザイナー、カール・ラガーフェルドへの敬意を示す「カールに敬意を表して」でした。カールはかつて〈パトゥ〉のデザインを手がけていただけに、現在のアーティスティック・ディレクターであるギョームにとっては特別な意味のあるテーマです。ギョームがエスコートしたのは、女優のアリソン・ウィリアムズ。彼女がまとったゴージャスなドレスはカールがメゾンに在籍していた1959年にデザインした作品からインスパイアされたそうです。気品とクラシカル感を宿した着映えに、ギョームからカールへの深いリスペクトがうかがえます。

「パトゥ松坂屋名古屋店」は〈パトゥ〉の今を丸ごと感じ取ることができる、特別感の高い場所です。私にとっては長く「伝説のメゾン」だった〈パトゥ〉だけに、ギョームの手で新たにスタートした新生〈パトゥ〉にはデビュー以来、ときめきっぱなし。大人の品格とフレッシュなかわいらしさを兼ね備えたテイストは唯一無二。長い歴史を持つメゾンならではのタイムレスな雰囲気も心惹かれる理由です。信頼できる老舗メゾンが手がけるアイテムは、おしゃれを楽しめる秋冬シーズンにいっそう頼りになります。クラシックさと斬新さが同居する空間を感じながらのショッピングは格別。「パトゥ松坂屋名古屋店」で、「マイフェイバリット」なアイテムに巡り会ってほしいですね。

次回は10月下旬の更新を予定しています。

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【お問い合わせ先】
パトゥ
松坂屋名古屋店 南館1階
電話:052-264-2288
営業時間:10時〜20時

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宮田 理江 RIE MIYATA

ファッション関連企業へのアドバイス(商品開発やトレンド分析、マーケティング、デザイン提案など)、企業・商品ブランディングの協力などの仕事を手がける。連載は、「THE NIKKEI MAGAZINE」「WWD JAPAN .com」「共同通信社」ほか。個人サイト「fashion bible」でもファッション情報を発信。バイヤー、プレスなど、業界での豊富な経験を生かし、自らのテレビ通販ブランドを持つ。Yahoo!ニュース エキスパート。毎日ファッション大賞選考委員。

※掲載品は2023年9月28日時点の取り扱い商品・価格です。商品の内容や価格は変更になる場合がございます。
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