松坂屋 史料室 企画展 Vol.43日本のきものには、水辺の翡翠や庭を駆け回る仔犬など日本独特の動物模様が見られます。また、四季を通じて人と動物が共生してきた姿が数多く見られ、豊かで雅やかな情景がうかがえます。本企画展では、友禅染めや刺繍など多種多様な技法で、愛らしい動物模様がたくみに表現された衣裳や裂をご紹介します。併せて、その模様や技法、配色などを記した江戸時代のいわゆる「小袖の見本帳」である雛形本も展観いたします。昭和初期(*)、松坂屋は高級呉服のデザインの参考にするため、江戸時代以前の染織工芸品を全国から数多く収集しました。収集品は、松坂屋京都仕入店で保管され、後に「松坂屋コレクション」と呼ばれることとなりました。国の重要文化財指定の衣裳も含む約1500点の松坂屋コレクションは、2011年(平成23)より一般財団法人J.フロントリテイリング史料館が保存・公開しています。KIMONO ― 動物模様松坂屋コレクション会期 : 令和2年8月28日(金)→11月23日(月・祝) 休館日:10月15日(木)会場 : 松坂屋名古屋店 南館7階・松坂屋史料室8月28日(金)→10月14日(水)/ 10月16日(金)→11月23日(月・祝)前期展示後期展示入場無料松坂屋コレクションについて衣 裳前期展示白地に色挿しと型鹿子、色糸と金糸の刺繍で杜若の咲く水辺、燕を表しています。燕は春の訪れを知らせる縁起が良い動物であると共に、江戸時代には家庭円満や縁結び、安産などの縁起物の象徴とされていました。杜若は、燕の飛ぶ様に似ていることから燕子花と書くこともあります。流水杜若に燕模様振袖(江戸後期)縹色の地に菊、萩、薄などが茂る秋の野で、鎌を手に草を刈り、籠に入れて運ぶ子供達と牛を描いています。文様の輪郭は糸目糊を置いて防染して白上げとし、人物と植物の一部に控えめに色を挿しています。牛と童をともに描く主題は禅宗の悟りに至る道程を表す「十牛図」。十牛の絵を基にしたデザインは、江戸時代の装飾芸術によく登場します。牧童草刈り模様小袖(江戸後期)浅葱色の地に糊防染の白上げで模様を表し、刺繍のみで色彩を加えた小袖。雪をかぶった山並みが遠くに望まれます。背面腰上には雉子を追う鷹、裾には犬と笠、弓矢が配され、鷹狩りが暗示されます。「鷹狩り」には鷹の爪で幸運を掴む意味もあります。緊張感を伴う場面ですが、猟犬も仔犬のようで、ほのぼのとした風景模様となっています。鷹狩り雪景色模様小袖(江戸後期)納戸色で地を染め、糊防染により残った麻の地色で表された椿の花と、紅の濃淡の色糸を用いて桜を刺繍した帷子です。両袖と肩には線描風の雲を棚引かせ、その合間に金糸の刺繍で蝙蝠を配しています。蝙蝠は中国において「蝠」の字が「福」と同じ発音ということで、吉祥を表すとされました。蝙蝠模様は、日本では江戸時代後期に爆発的な流行をみせました。椿桜に蝙蝠模様帷子(江戸後期)(動物模様=蝙蝠)※納戸色・・・藍染のひとつで、暗い青味の鼠色、あるいは一般に灰味の暗い青色の総称として用いられます。※帷子・・・夏に着る生糸・麻で作ったひとえ仕立ての着物です。(動物模様=牛)※縹色・・・明度が高い薄青色のことです。純粋な藍染を表す代表的な伝統色「移し色」とも呼ばれます。(動物模様=燕)※型鹿子・・・型紙を置き、刷毛で染液を摺ることによって、鹿子絞りのような模様を付ける技法です。(動物模様=鷹・雉子・犬)※浅葱色・・・薄い藍色のことで、平安時代からの伝統色です。※白上げ・・・糊防染や絞りなどで模様を白く表す技法です。あさぎきぎすなんどはなだすすきは けすかわせみかきつばたこうもりもようかたびら*(1931年(昭和6)~1939年(昭和14)までの9年間)
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