Vol.39 小袖の模様─名所風景|松坂屋史料室
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雛形本とは、流行の小袖模様や意匠を描いた木版刷りの冊子です。寛文期(1661~73)以降、江戸中期を最盛期として数多く刊行されました。江戸時代のいわゆる「小袖の見本帳」である雛形本は、小袖の背面図を中心に、文様や技法、配色などを記すのが一般的な形式でした。出版された総数については諸説ありますが、再版を含むと200種弱ともいわれています。松坂屋はその約半数を所蔵しており、コレクションとしては最大級です。前期展示衣 裳裂おう み はっけい も よう こ そでぎれきれ鬱金色の縮緬地に近江八景が描かれた小袖裂。この裂には帆掛け舟がみえることから、「矢橋の帰帆」が表されていると考えることができます。(名所風景模様=近江八景[矢橋の帰帆])まつしま も よう  からおり のう しょうぞくぎれ青海に、日本三景のひとつとして知られる松島が表された唐織能装束裂。唐織は、能装束の中で最も豪華な縫取り風の多色な紋織物の一種で、主に女役の表衣として使用されます。(名所風景模様=松島)※能装束とは能を演じるときに演者が身につける装束。染織技法の粋を尽くした豪華で気品の高いものが多い。う こんちりめん じや ばせ  き はんほ かはやり後期展示後期展示浅葱色の縮緬地に、白上げ、刺繍、型鹿子により宇治の風景が描かれた小袖。浅葱の地色を宇治川に見立て、右袖には鳳凰堂、腰下には、鮎などが打ち上げられる漁の仕掛けの梁、唄に知られる宇治の柴舟、宇治橋などが細やかに表されています。(名所風景模様=宇治の景 )う じ ふう けい も よう こ そであさ ぎちりめんじほうしばぶねおうどうやなかたかのこ宇治風景模様小袖(江戸後期)はし  かきつばた も よう ふり そで納戸色の繻子地に、白上げ、友禅、刺繍、墨絵により沢瀉等の水辺の植物、板橋に杜若が描かれた振袖。橋に杜若が描かれていることから、この景は、『伊勢物語』第九段で、在原業平が訪れた杜若の名所、三河国の八橋を表していると考えることができます。(名所風景模様=三河国八橋[知立] )なん どしゅ す じおも だかありわらのなりひらやつはし橋に杜若模様振袖 (江戸後期)白色の縮緬地に、刺繍、型鹿子、墨絵により流水に紅葉が描かれた小袖。流水に紅葉が散らされていることから、紅葉の名所竜田川が表されていると考えることができます。奈良県北西部を流れる竜田川は、古来より紅葉の名所として知られ、古歌にも多く詠まれています。(名所風景模様=竜田川) たつ た がわ も よう こ そでちり めん じこ か竜田川模様小袖 (江戸中期)白色の綸子地に、刺繍により摂津国一宮の住吉大社が描かれた小袖。数々の拝殿と住吉の名所としても知られた松、また三月三日には住吉の浜で潮干狩りが行われ名物となっており、腰下の太鼓橋の近くにはそのことを物語る貝が縫い表されています。(名所風景模様=住吉大社)すみよし も よう こ そでりん ず じはいでん せっつのくに いちのみや しお ひ が住吉模様小袖 (江戸中期)近江八景模様 小袖裂 (江戸中期)松島模様 唐織能装束裂 (江戸中期)ひながたたつ た がわ雛形竜田川             寛保2(1742)年(名所風景模様=宇治の景)ひながたそめいろ   やま雛形染色の山享保17(1732)年(名所風景模様=近江八景)※白上げとは、糊防染や絞りなどで模様を白く表す技法。※型鹿子とは、型紙を置き、刷毛で染液を摺ることによって、鹿子絞りのような模様を付ける技法。雛形本通期展示

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