Vol.30 四季の美—秋の模様|松坂屋史料室
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松坂屋 史料室 企画展 Vol.30日本の人々は、四季折々の情趣に恵まれた自然と、そこに育まれた細やかな感性により、季節を感じる風物詩、花鳥などの動植物、自然風景などといった、世界でも稀な、豊かな模様世界を創り上げてきました。昨年5月から8月にかけて開催した第25回企画展において「四季の美―夏の模様」、本年2月から5月にかけて開催した第28回企画展において「四季の美―春の模様」と題し、松坂屋コレクションの模様世界を紹介いたしました。今回は「四季の美」シリーズの第3回展として秋を感じる模様の小袖、裂地を紹介いたします。秋の七草の一つとしても知られる桔梗、大きくうねりながら枝を広げる楓樹、牧童が草を刈る秋の野の風景等が、刺繍や鹿子、白上げ、友禅染などにより表情豊かに表されています。併せて、その模様や技法、配色などを記した江戸時代のスタイルブックともいうべき雛形本も展観いたします。四季折々の自然のなか、古来より日本人が育んできた感性で創り上げた和のデザインと風情をお楽しみください。平成29年9月2日(土)→11月5日(日) 休館日 : 10月4日(水)四季の美─秋の模様前期 : 9月2日(土)→10月3日(火)/後期 : 10月5日(木)→11月5日(日)松坂屋コレクション衣 装前期展示流水に秋草模様小袖 (江戸後期)りゅうすいもえ ぎかた かの こちり めん じねぎあき くさ も よう こ そで萌葱色の縮緬地に、白上げ、色挿し、型鹿子により腰から裾に水辺の芦や菊、萩など秋草が表された小袖。据えられた三つ葉葵の紋が、徳川家ゆかりの婦人の小袖であったことを示しています。 (秋模様=菊・萩)※萌葱色とは、平安時代から用いられた色名で萌え出る葱の芽のような緑色のこと。※白上げとは、糊防染や絞りなどで模様を白く表す技。牧童草刈り模様小袖 (江戸後期)ぼく どう くさ か も よう こ そではなだもん ちり めん じ縹色の紋縮緬地に、白上げ、色挿しにより牧童が草を刈る秋の野の風景が描かれた小袖。野菊、萩、薄など大きく描かれた秋草に対し子供達の姿は小さいが、懸命に草を刈る子、転ぶ子など表情豊かに描き込まれています。(秋模様=野菊・萩・薄)※縹色とは藍染めの代表的な色を表わす色名で、ややくすんだ青のこと。※紋縮緬地とは、平織りで表面に凹凸がある絹織物の縮緬地に地紋(文様)を織り出したもの。籬に菊模様小袖 (江戸前期)まがきりん ず じきく も よう こ そで紺色の、柔らかく光沢のある地紋が浮かび上がる綸子地に、籬に絡まる菊が描かれた小袖。菊の花は絞りと色糸の刺繍で、葉は全て銀糸の刺繍により描かれ、雲と籬が、紅の鹿子により、鮮明に表されています。(秋模様=菊)※鹿子絞とは、生地を小さくつまんでくくる絞り染で、鹿の背の斑点に似ていることからこの名前がついたとされる。籬に桔梗模様小袖 (江戸中期)まがきぬめ じかた かの こき きょう も よう こ そで白色の、光沢があり表面がなめらかな絹織物の絖地に、型鹿子と刺繍、色挿しにより籬越しに咲く桔梗が描かれた小袖。秋の七草の一つとしても知られる桔梗は、今も秋の風物詩として親しまれています。(秋模様=桔梗)※型鹿子とは、型紙を置き、刷毛で染液を摺ることによって、鹿子絞りのような模様を付ける技法。
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