インタビュー
2018.10.24
− 特集 − 作家は語る 陶芸家 安藤日出武
自然を懐き、炎を操る 「穴窯」でしか生み出せないものを
[傘寿記念 安藤日出武十盌展
2018年11月26日(月)→12月4日(火)開催
松坂屋名古屋店本館8階美術画廊]
岐阜県の南部を指す「美濃」で生まれた焼き物「美濃焼」は、桃山時代に華ひらきました。現在、同じ美濃の地で、石炭やガスのなかった桃山時代の窯「穴窯」を再現し、焼き物をしている人物がいます。安藤日出武先生、御年80歳。その節目として、11月26日(月)から[傘寿記念 安藤日出武十盌展]が開催されます。
6昼夜、窯を焚き続け、世に出せる作品は1割程度。自ら波瀾万丈の人生を歩み、それを市之倉弁で豪快に笑い飛ばす日出武先生に、「穴窯」へスポットを当て、インタビューを行いました。
ねこなし皿から始まり、美濃焼の原点へ
窯元をやっとった家業を継いで、最初は当時1枚2円か3円にしかならん「ねこなし皿」※をつくっとった。このままではいかんと思っていたときに、わしの親父が書を嗜んだり漢詩を書いたりしているのを聞きつけた加藤唐九郎先生が訪ねてきてな。そのとき「焼き物をやるなら美濃で生まれた焼き物をやらんといかんぞ」と言われ、志野・黄瀬戸という、わしの焼き物修行が始まるわけやの。
※寝る間を惜しんで働かなければ儲けが出てこない「寝っこなし」が語源の小さなお皿
基礎的なことを勉強する場はあったが、それ以上のことは全部自分で開拓しないといかんかった。山を歩いて土探しから。そうして独学で試行錯誤をしていき、「朝日陶芸展」や「日本伝統工芸展」という日本を代表する公募展に入選する作品をつくれるようになったわけやの。
ようやく、ねこなし皿から脱却して良い焼き物をつくれるようになってくると、もっと追求したいという欲が出てきてた。桃山時代の人が電気も何もないときに、あれだけのものを生み出したというのは、どういう精神で、どういう感動があったのか知りたくて、原点である「穴窯」をはじめたんじゃの。
―穴窯の焚き方―
温度を上げるのに3昼夜、作品を焼くのに3昼夜かけます。約950度まで上げることを「焙り」と呼び、このとき薪をくべるのは2時間毎。約950度まで上がったら、だいたい5分毎に薪をくべる「攻め」に入り、1200度まで温度を上げてそれを維持します。焙りまでは酸素を入れて焼く「酸化焼成」ですが、攻めからは酸素を入れない「還元焼成」に切り替えるので、少ない酸素で燃やせる量しか薪をくべることができません。時間と手間をかけてじっくりと温度を上げていくのです。
自然すら受け入れる器の大きさ
初めて穴窯を焚いたときは失敗した。窯を開けてみたら、作品が真っ黒だったわけ。なんでかというと、薪が燃えた後、空気孔を全部塞いだもんで酸欠になって「炭化」の状態になったわけやの。見に来とった松坂屋の人も、わしもガッカリやった。一生のうちでもあんなことは、なかなかないことやったけど、未熟やで当たり前と思ってすぐ次へ切り替えたわ。
窯焚きのときに台風が直撃したこともあったな。3ヶ月以上かけて作品をつくって、1500束ほどの薪を準備して挑むんだけども、そのときはまったく何も作品が取れんかった。今の世の中、ものすごく発展して何でも自由に手に入るようになったけどな、台風とか地震は止めることができん。わしの仕事は、その自然を相手に、雨が降ろうと何が降ろうと焼き抜くということやでの。そして、穴窯でなければできないものを生み出していく。これほど難しいもんはないし、また、やりがいがあるわけやの。
思い通りにならないからこそ、おもしろい
季節によっても、6日間の天候の具合によっても焼き上がりは違う。同じ条件なんてない。自然やでな。それをいかにして自分なりに見極めて、やっていくかということやの。自由自在に火を操れるようにならないといかん。ただ温度を上げればいいだけでもないしの。出したい色を出すために、薪の量や、くべ方を考えて温度が上がるのを抑えたりもする。だから、薪をくべるのはわしと息子の工(たくみ)だけ。そんでええわけよ。
100年先に残るものを
桃山のものを基礎にしつつ、今の時代に合った、桃山にはないものを生み出していくということが大事。今、名品として残っとるものは、桃山時代の人が使って本当に良かったものやと思う。焼き物っていうのは、使って良くなるものが本物なわけやでの。だから今の時代の人に、わしの茶碗で飲んでみたいという気持ちになってもらわないといかんわけよ。そのためには、「良い土・良い釉薬・良い焼き・良い作り」を追求しないと。ご縁があって、釉薬の原料になる長石や灰は良質なものをタダでもらっとる。穴窯を築くのに良い土地にも恵まれた。やろうと思ってもできるもんやない。それもひとつの運やな。
個展への意気込み
個展に出すのは、今、窯へ入っている200点から選りすぐりの10碗。それぐらい気合を入れてやらんといかんで。中途半端に、あるやつを出せばええとか、そーゆーものはやらんほうがええ。やっぱり難儀をしてやることに意義があると思うわけやの。今までにないようなものもちょっと出したいなということで、挑戦をしとるものも入っとる。命をかけとるでの!
インタビューを終え、「お身体に気をつけて」と声をかけたところ、返ってきたのは笑顔と「燃えとるでな」の一言。80歳になってもまだなお、燃え盛る心をお持ちの日出武先生渾身の10碗を存分にお楽しみください。
プロフィール
安藤日出武 陶歴